初景色

我の強めな感想を書きます

けむりの軍団 感想

今日けむり終わっちゃうとかさみしすぎて無理なんだけど……!!
ネタバレあり感想をあげられていないのが唯一の心残りなので、開演30分前だけど、とりあえず置いておきます。

このお話で一番好きなのは、最初自分の思惑しか考えていなかった人たちが、最後には自然にお互いを思いあっていて、家族みたいに見えるところでした。
自分が重い人間なので、努めてあのからっとした感じを大事にしたいと思いつつ、愛しく思わずにいられない、そんな4人だったなと思います。
最後の雉原城での彼らのことを考えてから、最初の木賃宿のシーンを思い返してみると、十兵衛に護衛を依頼するが十兵衛の望みがわからない紗々、素性の知れない輩には頼りたくない源七、自分に利がないことは引き受けない十兵衛、十兵衛の仕官の望みを紗々に示して活路を見出そうとする輝親、と、あんなにバラバラだったのになぁと感慨深くなります。
あれだけ何年も仕官にこだわっていた十兵衛が、紗々との関係を悪くしたくないから断るって……もちろん目良との戦いで働きができたことでひとつ満足はしたのだろうし、そもそも人に仕えるのが性格的に向いてなさそうだけど、それでもこの関係が大切になっちゃったんだなぁと、胸がいっぱいになってしまいます。
紗々の「好きにするが良い」も、冒頭の木賃宿では全く十兵衛のことを理解していないから出てきた言葉だったのが、十兵衛のことを理解して判断を受け入れたからこその言葉になっていて、ここの重ね方めちゃくちゃ好き……。
そして、最初は自分の活路のために「あなたも察しの悪いお人ですねぇ」ってけしかけるように笑っていた輝親が、紗々が十兵衛の仕官を認めたことを喜ぶだけの純粋な笑顔になるのがもうめちゃくちゃに好きで……。あの笑顔、下手からじゃないと見えないけど、見えた範囲では毎回違って、にこにこしたり、ニヤッてしたり、にこってしたり、にこにこしちゃうのを抑えようと少ししかめ面になってたり、いろいろしてて、でも全部うれしいんだなって感じがして愛しい。昨日はじわじわとにこってお顔になってました……。3回目で初めて見えたあのシーンの表情をきっかけにチケットがあと13枚増えることになったくらいに大好きでした……。
源七がて~る~ち~か~って圧をかけるのも好き。4人の中で一番まっすぐで、厚見のしきたりにも忠実であろうとしていた源七が、ああやって輝親に恩賞を受け入れさせようとしたり、十兵衛の仕官について心配したりするの、身内感がすごくて……。源七がいてくれることでなんとなくあの4人に安定感が出るなぁと思います。
合戦場から逃げていくときに十兵衛が紗々と源七の手を取るのも大好き。あれめちゃくちゃパパだなって思ってます。十兵衛パパ。そこからの4人で逃げていくところ、ほんとに家族みたいだなって、すっごく愛しい。この4人が大好きで幸せでした。

以下役別の感想。

十兵衛は口ではあんまり素直じゃないのに、情があるのはわかりやすくて、愛おしい人だなと思います。目的だったはずの輝親も逃がすし、ずっと願っていた仕官も断るし、どれだけ大事になってしまったのか、大事に思わせてしまったのか……。
噂に聞いていた通り、本当にかっこよかったな。立っているだけで空間を埋められるのがすごくかっこよかったし、戦うと強いし、すっごく素敵でした。特に書院のところで一対多で戦うときが、ほんと強くてめちゃくちゃかっこよくて大好きでした。

紗々と源七は、冒頭の、家臣に手を伸ばす紗々と一礼して紗々の手を引いていく源七が、観れば観るほど効いてきました。立場のために様々なものを犠牲にしてきただろう紗々が、自分を優先させて言うことが十兵衛に死んでほしくない、なのが、なんて人なんだろうと……。
紗々の芯の強さってほんとに好きなんですけど、彼女みたいな強さってわりと稀有なんじゃないかなぁという気がします。への字に結んだ口が本当に好きなんですよね。悲愴な顔はほとんどしない、冒頭の源七に引っ張っていかれるところにわずかに彼女自身の気持ちが見えるくらいで、後は常に上に立つ者としての意識で立っている。いつでも同情を引くような顔はせず、強気の姿勢を崩さない彼女の、「兄上のためぞ!」の一言の、一瞬だけ見せる悲痛な響きに、これまでどんなこわさやさみしさやつらさを呑み込んできたのだろうかと、彼女の背景が一気に押し寄せてくるのがたまらなかったです。3年間、眠るときも脇差を抱え、城を調べつくし、仲間の屍を踏み越えてきて、その上で、そなたに死んでほしくないと、すっきりとした顔で言うのが、とてもうつくしいと思っていました。

源七はひたすらなまっすぐさに説得力が生まれるのがすごいなと思っていました。あの4人の中の良心だなと思いますし、紅顔の美少年といった容貌とコミカルなかわいらしさもキャラクターと合っていてすごく良かったなぁ。あのまっすぐさで厚見家でも愛されていたのかなと思いますし、気持ちの強さがあるからこそ紗々姫を託されたのかなと思っています。冒頭で転けて他の家臣の人に助けられてるとこがすごく好きで、厚見家での彼について想像してしまう。姫には戦いでは助けられるし意見は却下されるしで、なかなかいいとこないけど、まっすぐに意見してくる相手がいるからこそ姫も強く立てていたんじゃないかという気がします。

輝親については、好きすぎるので最後に書きます。

目良家は、人間関係にここまで積み重なってきたものを感じてとても面白いです。特に女性陣がとても好きでした。
嵐蔵院は観ているうちに一番守りたくなる存在になりました。夭願寺で、千麻が開き直ると顔を背けちゃうところが切なくて。息子と嫁のそういうところを見たくないだけでなく、千麻に大殿の寵愛を受けた側室たちを見てしまうからこそ必要以上に辛く当たっているんじゃないかと思えて、切なくなってしまう。堂々としているようで、驚くところではリアクションが大きいのがかわいくて、こんなかわいい人に目良家の権勢を一人で守らせてしまった大殿が憎いです。嵐蔵院の子が則治一人というのがね、どういう経緯なのか、いろいろ考えてしまいますね。

千麻はすっごくかわいくて最初からずっと大好きでした。面白いキャラクターだけど、札のシーンで見せる素の表情と声が少女のようで、うつくしくて、心惹かれていました。殿への愛情と権力志向とが混ざりあっているような気がして、最後ああなってしまうけど、何が彼女にとって最善だったのかなと考えさせられます。殿の方に向き直るときに、眉根を寄せるときがあったのが、とても切なくて。千麻がどういう気持ちだったのか、理解しきれる気はしないけど、わかりたいという気持ちで見つめています。

則治は、最初から面白くて大好きでしたが、いつからだったかな、夭願寺に訪れるシーンでラストの片鱗を見せてて、わかりやすくなってた気がして、ちゃんと知ろうとしようとしているのに、かわいそうだなと思うようになりました。
紗々を悪く言われたらかばったり、嵐蔵院から千麻をかばうのは、夫としてはちゃんとしてる人だったなと思います。嵐蔵院と則治、ゾフィとフランツではなかったのがほんと救いだった……紗々脇差の件が嵐蔵院にはおそらく伝わっていないのがね、よかったですね……。あと後半なんだか千麻とのいちゃいちゃ増えてました?見えるときしか見られてないのでわからないけど、カップルとしてかわいくて大好きでした。

莉左衛門は、顔芸が好きすぎました!特に糸と格闘してるところがめちゃくちゃ好きで、面白いやらかわいいやら……。私は基本輝親定点だったのに、あそこだけは輝親から視線を外さざるを得なかった……視界には入れてたけど。莉左衛門の面白さが進化していったのを見ていられたのは本当に楽しかったです。福岡公演からかな?東京では決めてたセリフをどんどん崩していってたのがなんかすごいなって思いながら笑ってました。最近チキン宿って言ってるよね、あれさりげなくて好きすぎるんですけど笑
と、面白いって話は置いといて、莉左衛門を見ているといろいろ思うところ、というか、自分の職場での振る舞いも振り返ってしまうところがありました。いやぁ、報連相って大事ですね。誰か教えてあげて。ただ純粋に目良を守るためにどうすべきかの最短ルートを行った結果、ああなっちゃってるのがかわいそうすぎる……。武功とか名誉とかあんまり考えたことないから無邪気に一虎を傷つけちゃったり、目良にあって唯一裏表がないというか、まっすぐに目良を守ることしか考えていないから、嵐蔵院にも意見できてしまったりするのかなと思ってました。親も生国も知らない、欠けてしまっている己の土台を埋めようと一生懸命だったのかなぁ。
合戦の最後の気迫が本当にすごくて、青い炎が立ち上るようで、うつくしかったです。

長雨は、嵐蔵院に詰め寄られても白状しない強さが好きでした。クールビューティーで格好よくて、夭願寺で嵐蔵院に耳打ちするところめっちゃ好きだったな。でも、そんな人が焦ったときに顔が笑みを形作ってしまうのもたまらなかったです。最後まで本人には言わなかったのか言えなかったのか、最良の判断などどこにもなかった気がするのが切ない。

一虎は、ビジュアルが一番好みでした。莉左衛門との並びも格好よくて、良いコンビになってほしかったなぁ……。最初に莉左衛門が話し出すときにお二人を一緒に見るのが楽しくて好きでした。
莉左衛門のスタンドプレーにはストレス溜めるし、それを評価されて取り立てられるのも悔しそうだし、過去の功績は悪いなく否定されるし、一虎も別に莉左衛門につらく当たろうって気はなかったと思うんですけど、一番に疑いの根拠を口にして、討つための号令を食い気味でかけるの、そういうのが積もりに積もっての結果って感じがするなぁと思いました。私も気をつけよう……。
殿の刀を受け止めるのと、vs莉左衛門のとこはめちゃくちゃかっこよかったです。殺陣ほんと早くてかっこよかった……。

夭願寺は、3人のキャラがめちゃくちゃ立ってて、すっごくかわいくて大好きでした。動きがどんどん大きくなるのがほんと楽しくて……。なんか、良い言い換えが見つからないのでそのまま書いちゃうんですけど、生徒会っぽいなと思いながら見てました。生徒会長残照と、キュートな補佐役有玄と、真面目な実行部隊峰角と……。夭願寺のシーンはほんとに楽しかったとしか言えない……なんなのあれ……ほんと好き……。有玄の阿修羅に毎回ツボってました。あと峰角が丁寧に扉を開け閉めするのが好きでした。戦うときは、有玄が走るの大変そうだったりするのが面白くって。残照さまの殺陣はめちゃくちゃ美しかったですね。最高に美しかった。毎日観たい。

輝親さま。大好きでした。
たぶん輝親が何かを大事に思ってるときの表情にやられたんだなぁ……あのキャラクターであんな優しい顔するのずるいです。
表情も声音もくるくる変わるのが本当に魅力的で、十兵衛との掛け合いも楽しくて、いつでも何かしていて、大好きだったんですけど、一番好きだったのは静かに何かを見ているときの表情でした。
自分のために動いてばかりと思いきや、いつの間にか4人で行くことが目的になっていて、底の知れないお人だなと思いつつ、あたたかいところがあるのが好きでした。元領民たちに慕われるお姿や、人の手で生み育てられるものの尊さを語るときの深い目、十兵衛や紗々、源七を見る目元に滲んでくる情に、心を奪われていました。
二幕の最初と最後、青々とした田んぼも、赤いもみじも、とてもあざやかでうれしかったです。こういう風景を輝親は愛しているんだろうなって思って、自分もそれを見られているような気がして、幸せでした。
ラストシーンの、セリフがないときの表情がすごく好きで、何を思っているのか理解しきれる気はしないけど、わからないから惹かれてしまう。でも、輝親があの3人のことをすごく大事に思うようになったからああいう目をするんだろうなと思います。
あの青々とした城下で本音を見せ始め、もみじの散っていく中で終わるけれど、あの4人の関係は黄金色に実っているのかもしれないなぁ、なんて思っています。